The golden age of electronics.

660/670リクリエイション ストーリー


技術的にも、歴史的にも、すべてにおいてオリジナルに対し正確で忠実でなければならない。- Simon Saywood


Analoguetube社は、ロンドン随一のテクニカルエンジニアとして知られるサイモン・セイウッドによって、2008年に創業され、10年にわたりハンドメイドの真空管スタジオ機器を製造供給しています。世界でもっとも信頼されているFairchild 660/670再生産モデルであるAT-1/AT-101の開発は、それより何年も前に携わったひとつのオリジナル670の修理から始まりました…。

そのオリジナル670の修理と解読のためには電源投入が必要でした。ユニットには、幾つかのオーディオトランス(信号O/Pおよび制御O/P)とその他の部品が欠損しており、調査を進めたところ、そのユニットの問題の原因は管電源まわりの配線不良であったことが明らかになりました。また、そのユニットがかなり長い間稼働していなかったことがわかりました。多くオリジナルユニットは何年もの間に改造されていることが多いですが、製造時の半田のいくつかは依然として残っていることがあり、特にそのユニットは、B +電源の電圧を調整するE80F真空管の半田ピンの周りに施されていたオリジナルの半田がひどく劣化していました。興味深いことにそのユニットが抱えていた問題の根本原因は工場生産時によるものだったのです。数ヶ月に渡る調査と、4つのトランス、数え切れないほどのコンデンサー、抵抗器、大部分の配線を交換することで最終的にそのユニットは息を吹き返しました。ロンドンのトップレコーディングスタジオ、メトロポリススタジオのテクニカルエンジニアとして働いていたサイモンは、この Fairchild 670の大改修をきっかけに、オリジナル670/660そのものを現代に甦らすという一大プロジェクトに取り掛かります。






Fairchild 660/670

AT-1/AT-101のオリジナルモデルであるFairchild 660/670コンプ/リミッターは、素晴らしい操作性と複雑なデザインを持つ、長い時間を掛けて作られた贅沢なオーディオ作品でした。動作時には、空間的なイメージとトーンを作り出しながら、ミッドフリケンシーの広い帯域をリミッティングし、魅力あふれるダイナミックなコンプレッションを展開します。多くのオリジナルユニットは現在においても実稼働するユニットとして存在しており、それが高価であることを知らない人はほとんどいません。

オリジナル670/660の設計者、レイン・ナーマに魅了されたサイモンは、660/670の調査を深め、その過程で670には幾つものバージョンが存在すること、そしてACスレッショルドとパワーサプライに修正変更があったことなどを知り得ます。670のバージョンの中にはPCB基盤が追加されているものもありましたが、全てのユニットに共通していることは、50年代の古典的なハンドワイアリング技法で作られていることでした。電気技術の黄金時代における金字塔、Fairchild 670/660をオリジナル通りに復刻製作することは、彼のエンジニア人生を掛けた一世一代の大きなチャレンジでした。

Analoguetube 社の新しい670、AT-101は、オリジナル670のPTP(ポイント・ツー・ポイント)配線と同様に組み上げながらも、多くのオリジナルユニットが苦しんでいた多数搭載する真空管が及ぼす配線への断熱問題を解決するためにジュンフロン絶縁配線を採用し長寿命を実現させています。(累計出荷台数50を超えてなおATシリーズには故障履歴はありません。)昨今、670に似た製品が市場に幾つか存在していますが、PCB基盤を使わず、PTP配線で完全にオリジナルと同様にハンドメイドで製作しているものはAT-1/AT-101のみです。
熱問題を除くオリジナル660/670にみられる不良の原因の多くは、コンポーネントの劣化やトランスの故障などが挙げられます。現存するオリジナル660/670は、ソリッドステート革命前夜の時代に登場していることからそのほとんどは既に60歳以上になります。

670には、670を重量級スーパーオーディオギアに形成しているいくつもの繊細な特徴があり、これらは、機能的、音調的にオリジナル670のパフォーマンスに限りなく近い再生産モデルを製造するための大変重要な要素になります。660/670は、いわば多くの成分で作られたケーキのようなもので、この構成要素の1つを取り除き、それを他もの(例えば現代的な同等物)に置き換えてしまうと、その機能や音調のバランスは崩れ、別のものになってしまいます。670の素晴らしいサウンドを忠実に再生産するためには、真空管電源を含めた全ての構成要素をオリジナルと同様に保つことが非常に重要な前提条件になります。






新開発の6386管

Analoguetube社では、可能な限りNOS真空管を使うようにしていますが、現行製品を作るということの哲学の一つとして、新しく製造されるユニット達は、機能と音調が等しく成り立ち、かつ、いつでも棚から出せる状態にしなければならないと考えています。継続供給を保つことは困難なものであってならなく、また全ての部品は新品でなければいけません。660/670の再生産にあたり、幾つか入手の可能性に問題がある真空管がありました。その中でも特に顕著だったのが何十年も前に無用の長ものとして過去のものになっていた6386ゲインリダクション真空管です。AT-101開発当時の670タイプと呼ばれるVariable Muコンプ/リミッター達には、6386管の代替えとしてECC189、6BA6、6BC8管などがリモートカットオフ真空管に採用されていました。

Analoguetubeの新しい670における変更箇所の一つのとして、そのバイアス変化で生じるゲインバリエーションを供給するグリッド機構を持ったリモートカットオフ真空管に新開発のJJ Electronics社製の6386 管を採用していることが挙げられます。サイモンは、開発の初期段階で、真空管メーカー、JJ Electronics社に6386管の音楽産業における重要性と再生産の必要性を訴え、容易ではない6386真空管の再開発を緊密に協力支援することを条件にこれを2年掛りで説き伏せることに成功しました。数え切れない試作とデータスプレッドシートの往来は、サイモンとロンドンのトップレコーディングエンジニア達が納得するまで何度も繰り返されました。






再設計に関する課題

歴史的に最初に登場したオリジナルモデルはモノラルバージョンの660でしたが、再生産モデルの開発は、2002年当時のステレオアウトボードの需要と発展性から、AT-101(670)から着手されました。

6386管と併せてあったもう一つの課題は、音色の鍵とも言えるオーディオトランスです。AT-1/AT-101が採用しているトランス、Sowterは、過去にオリジナル670をリプレイスするためのトランスを製作した経験があり、新しい670のためのアイディアを受け入れる準備がありました。入力トランスには、コントロールアンプの入力と同じの81%のニッケル含有の非常に大きな100%ムーメタルトランスを採用し、信号アンプ出力には、コントロールアンプの出力と同じのM6粒子配向性シリコンアイロンを採用しています。これらのカスタムトランスは、オリジナル670ユニットとAT-101プロトタイプの長時間に渡る比較テストに基づいて採用されました。
新しい670のために再開発されたコンポーネントの中には、6386ヒーター用のAC電源レギュレータを実行させるサチュレーショントランスも含まれます。オリジナルデザインはやや信頼性に欠け、条件によっては問題が発生することがあったため、より高い安定動作のためにこれを再設計し18ヶ月間を掛けてリメイクしました。

オリジナル670のMid-Sid(LAT/VERT)スイッチには、明白に改良の余地がありました。オリジナルの機構は、デュアルウェーハのオープンタイプスイッチがフロントパネルに頼りなくワイヤリングされているだけだったので、AT-101のLAT/VERT(M/S)オプションでは、新規開発されたカスタム入力トランスと、4つの取り外し可能なリレーを使ったシンプルな回路に変更することで、無用に煩雑なワイヤリングから解放しています。






設計哲学

Analoguetubeにおける設計哲学は、技術的にも、歴史的にも、すべてにおいてオリジナルに対し正確、そして忠実でなければならないとしています。オリジナルデザインとすべての部品を交換共用できることを前提に、難しくならず、時代遅れにもならず、現行製品として、生涯において使い続けられることを保証しています。

サイモンのプロオーディオ産業における歴史的功績、高い技術に裏づけられた謙虚な忠実性、刷新された長寿命設計により、AT-1/AT-101コンプ・リミッターは、Fairchild 660/670を更新する唯一無二の現行モデルと評され、累計出荷台数50台を超えるヒット製品となります。世界的トップアーティスト、プロデューサー、スタジオをクライアントに抱えるAnaloguetubeの新しい660/670サウンドは、今日のトッププロダクションで日々聴くことができます。




Analoguetube社は、AT-1/AT-101製造の傍、Fairchildリペアのエキスパートとして歴史的な660/670ユニットの修繕にも尽力し、その保全に貢献しています。