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PAU Audio 805 導入レポート

次世代マイクプリの衝撃

五十川祐次 x 木部寛之(株式会社スクウェア・エニックス)



着実にユーザーが増えている話題の次世代マイクプリアンプ、PAU Audio 805。その魅力をいち早く察知し、805をスタジオのメインマイクプリアンプに採用した、株式会社スクウェア・エニックス。同社のサウンドデザイナー、五十川祐次、木部寛之、両氏にその革新性とアドバンテージを2018年1月に開設したばかりの新スタジオにてお話を伺いました。


── まず、こちらの新スタジオについて教えてください。

五十川:ここは現状、ゲームのボイスを録ることを主な目的としたスタジオで、今年(2018年)に入ってから少しずつ稼働しています。いままで弊社の2スタジオがその役割を持っていましたが、ブースが、二人、三人立つのがやっとの大きさであったということ、そして収録スケジュールが重なってしまうことも多かったので、結果的に外部のスタジオで録ることも少なくありませんでした。このスタジオでは、アニメと同じアフレコスタイルで複数の役者さんをマイク4本で同じタイムラインに録って行くことができます。
スタジオ機材は、2スタジオと同じく揃えるというのがコンセプトで、AVID(Euphonix) S5 Fusionに最新のAVID MTRXをA/Dコンバータとして選択しました。AVID HD I/Oをインサート用のAD/DAに用意することでManley NuMu、Maselec MPL-2などのアナログアウトボードとS5 Fusionのデジタルプロセッサーを自由にルーティングできるようにしています。


── なぜ改めてマイクプリを選定することになりましたか?

五十川:ゲームのボイス収録は、1日で録り切ることができない数を録るので最低でも一週間以上を続きで行うことが多い。そのためスタジオブッキングの関係で、あるシーンの音声はあっちのスタジオ、あるシーンの音声はこっちのスタジオ、となって音のキャラクターがバラバラになってしまうことがあります。それを極力さけたいとプランを考えていった時にこのスタジオに構えるマイクプリはどうしよう、となり新しいマイクプリ、PAU Audio 805を試してみたんです。




アフレコスタイルの収録ブース



── 805の最初の印象は、どのようなものでしたか?

木部:最初のインプレッションで、あ、これは!と思いました。すぐにコレはいいんじゃないかと。

五十川:事前情報なく試したマイクプリだったので、え、本当!?っていう感じでしたね。かなり良い感触でした。

木部:コレいいねって、思わずふたりで声を揃えてしまいましたね。

五十川:普段は、録音ブースにMilleniaの8chリモートマイクプリ、HV-3Rをブースに置いて使っていたのですが、コントロールルームにポンと置いただけのPAU Audio 805のS/Nが全然勝ってました。

木部:ブースに誰もいない状況でファンタム入れてもメーターが全く振れない。コレちゃんと電源入っているのかな?と思いましたね。それくらいS/Nが良い。ボイス収録ではS/Nの良さはとても恩恵が得られるんです。ゲーム内でボイスが鳴るシチュエーションというのは、必ずしも後ろで音楽やSEが鳴っているとは限らない。無音の上にボイス単体が鳴ることもあるので、そこにヒスノイズがあるとゲームの没入感が損なわれてしまいます。収録されたボイスは、ポストプロダクション処理で音圧を上げることになるのでその時にヒスノイズがない、S/Nが良いということは大きなアドバンテージです。
試しでアコースティックギターのアルペジオを805で録ったとき、一人でオペレートしながらブースを行き来するテストだったので、ものすごく低いレベルで録れてしまったのですが、それをDAWでノーマライズしても全く問題ないノイズレベルでした。

五十川:805は、現場で”ツンデレ声”と呼んでいるボソボソした声にも余裕で対応できる。これは、ボソボソと喋るキャラクターの声で、実際の声優さんの声もとても小さいのでマイクプリ側でゲインを思いっきり上げないといけない。普通のマイクプリだと波形もホニョホニョっとなってしまう非常に収録の難しい声なのですが、805は入力が小さいものであっても敏感に反応してくれて、それをバンと上げてもS/Nがいいので大丈夫なんです。




サウンドデザイナー・レコーディングエンジニア 五十川祐次



── 805のトランジェントの良さは実感できましたか?

五十川:同時に録り比べていたMillenia HV-3Rと比較しても波形を見たときにあからさまに805の方が立ち上がりも速く、アタックが綺麗に出ていました。波形も目視しながらこう動作するんだとチェックしましたね。

木部:立ち上がりの速さだけでいえば、これまでも速く録れるマイクプリはありました。けれどもそういうマイクプリは総じて録れる音が細いんです。PAU Audio 805は、立ち上がりも速くありながら、ちゃんとマイクプリという音で違和感がない音で録れる。輪郭がくっきりしていて前に出てくるのでヌケがいいという印象もありました。特に注目したのが200、300Hzあたりの中低域で、とても滑らかな音がしている。すごく伸びがあるいい音で、上も下もあるけどドンシャリじゃない。

五十川:そう、上も下もあるけどドンシャリじゃない。忠実で素直な音です。イメージ的には、Millenia HV-3RとRupert Neve Designs 5024の中間のポジション……、でも初めて聴く音ですね。立ち上がりがここまで良いマイクプリというのは聴いたことがない。

木部:805の連続可変ゲインノブもボイス収録にとてもポイントが高いです。ボイス収録では、セリフを録っている最中にコンプに入る前段のゲインを微調整することがあります。ここにUmbrella Companyの The Fader Controlを備えているのもそれを行う為に用意しているものなのですが、805のゲインノブは、非常に滑らかで重量感がありトルクがあるので直接触って微調整することができます。これは、ガチャガチャ切り替えるステップゲイン式のマイクプリや、スカスカで軽いゲインノブを持ったマイクプリでは行えないことです。805は、ボイス収録に非常に適した仕様のマイクプリと言えますね。


── マイクは、どのようなものを使っていますか?

五十川:普段からメインで使っているのは、Neumann TLM67とTLM107で、女性のときはTLM107、男性のときはTLM67を基本に使い分けています。セリフ収録には味付けの少ないマイクを選ぶようにしていますね。805は、Neumann TLM107との相性が異常に良い。TLM107は、比較的新しいNeumannのマイクで、入力の耐圧が高く、吹かれにも強い。TLM107のバンとしたアタックを805がキレイに受け止めてくれる。そしてTLM107も非常にS/Nがよいマイクなので805と組み合わせることで無音時には本当に全くメーターが振らなくなる。

木部:PAU Audio 805を聴いておっ!となったのもTLM107との組み合わせでした。

五十川:他には、スモールダイアアフラムのNeumann KM184も試してみましたけど、それも粒立ちがよくとてもキレイに録れましたね。




サウンドデザイナー 木部寛之



── マイクプリは、これまでどのようなものを選んできましたか?

五十川:FocustriteのRED8、AMEKの9098EQチャンネルストリップなどを使ってきました。外部スタジオではSolid State LogicのHAも多かったですね。ポストプロダクションでは、総じてクリーンかウォームなサウンドのマイクプリが使われます。ウチでは最終的にMilleniaになって、そこから今回のPAU Audioという流れになります。ボイスの収録は、数をやっていくといろんな声を録って行かなければいけないので、マイクプリは、オールラウンドに対応できるフラットな特性のものがいい。多いときには10分単位で声優さんが変わっていくので、歌のレコーディングのように特定の人だけに合うマイクプリというのはボイス収録では使いづらいんです。また、そういうマイクプリは、マイクを変えたときにマイクとの相性が合わなかったり、マイク乗りが悪くなったりするなどの問題が起こりがちです。必然的にマイクプリはクリーンなものを使い、声とのマッチングはマイク側で合わせるという考え方になります。それでありながらも僕らは音を波形にしていなければならないので、程よい音圧を持ったチャンネルストリップのような音にどのように閉じ込めていくのかのバランスを常に考えなければいけないんです。




新スタジオに揃えて導入された805



── 新スタジオに揃えるマイクプリ達はどのように使い分けていますか?

木部:MilleniaやJohn Hardy M-1は、昔からの外部のアフレコスタジオに入っていることが多いので、外のスタジオで録ったものとキャラクターを合わせるために用意しています。なので、外部スタジオでボイスやナレーションを録るときは、どこのスタジオで何のマイクプリで録ったのかをメモに残すようにしています。

五十川:今はデジタルのモデリング技術などが発達していますけど、そういうものはみんな周波数しか見ていないのでマイクプリの立ち上がりのキャラクターなどはついてこない。同じタイトルで複数のスタジオを跨ぐ場合には、マイクプリのキャラクターは揃えてあげなければいけないんです。そういう意味でもキャラクターを形成するPAU Audioのトランジェントの良さは際立っていますし、4chマイクプリとしてのコストパフォーマンスはすごい。導入のしやすさにも繋がりました。

木部:この価格帯ではズバ抜けた性能を持っているので、まさに一家に一台のマイクプリです。805には、様々なマイクの魅力を引き出せるポテンシャルを感じるので、新しいスタジオではボイスだけじゃなくいろんな楽器も録っていきたいですね。




AVID(Euphonix) S5 Fusionと最新のAVID MTRX



株式会社スクウェア・エニックス
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