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Developer Interview: Coil Audio, Jim Vollentine

デベロッパー・インタビュー:コイル・オーディオ、ジム・ヴォレンティン



ヴィンテージ・プリアンプに精通する二人の技術者、ジム・ヴォレンティンとスティーヴ・スクワイアによって2015年に創業された「COIL AUDIO」は、トランジスタ革命以前の30-60年代の真空管機器で聞くことができる”スーパー・ハイ・フィディリティ・サウンド”が得られる新しい手段を提示することで、一躍して世界に注目される真空管・レコーディング・ギア・デベロッパーになりました。彼らはどのようなビジョンを持ち、何を達成しようとしたのか。同社の共同創業者であり、プロデューサー/エンジニアであるジム・ヴォレンティン氏に話を伺いました。


── どのような動機で「COIL AUDIO」を始められましたか?

ある時、スティーヴ(スティーヴ・スクワイア、「COIL AUDIO」の共同創業者)が1950、60年代に作られたGatesコンソールから抜き出されたプリアンプを買ってきたんだが、そのサウンドが驚異的にヤバかったんだ。1900年代初期の「Western Electric」、「RCA」、「Gates」、「Langevin」、「Collins」、「Signal Corp」、「Telefunken」などのプリアンプは、シンプルかつエレガントなデザインでサウンドは信じられないほどに素晴らしい。それに習って自分達が使うためのプリアンプのアッセンブルを始めて、そのうち仲間のエンジニア達にも作るようになった。俺達が作るようなものは他のどこにもなかったから、それをきっかけに会社を作ってしっかりやろうということなったんだ。「COIL AUDIO」は、まずオーディオ・エンジニアである自分達が使いたいものを作るというのがコンセプトになっている。




スティーヴ・スクワイア、「COIL AUDIO」の共同創業者



俺が90年代の終わり頃に働いていたスタジオには、とても状態の良いヴィンテージNeveコンソールやラッキングされたAPIコンソールがあって、それらのソリッド・ステートの機材に加えて、より前の年代の機材、「Langevin 5116」や、「Telefunken V76」、「V72」などの真空管の機材があった。自分のキャリアの中で真空管プリアンプから「Neve 8078」コンソールのような真空管ではないものまで様々使ってきたが、自分のサウンドを的確に得ることができたのは常に真空管のプリアンプだったんだ。本物の真空管プリアンプというは、わずかなコンプレッションやリミッティングを施したようなサウンドを、コンプレッサーを使わずに得ることができて、マイクを繋げて適切なマイキングを行えば余計なことをしなくていい。何より真空管の機材は自分の仕事を楽にしてくれたんだ。




ジム・ヴォレンティン、「COIL AUDIO」の共同創業者



── ヴィンテージ・プリアンプはどのように学びましたか?

その後に働いたスタジオのオーナーが宇宙航空産業で働いていた男で、あり得ない量のヴィンテージ・プリアンプをコレクションしていた。「Telefunken」、「RCA」、「Gates」、「Collins」、「Western Electric」、「Signal Corp」、思いつく限りのヴィンテージ・プリアンプのほぼ全てがそこにあって、ラッキーなことにそこで働くことでそれらの違いをよく知ることができた。1900年代初期のヴィンテージ・プリアンプ達は同じ回路の上で少しずつ仕様が推移しているんだが、よく見るとそれらはすべて、アンプやネガティヴ・フィードバック量などが異なるだけの“いわばバージョン違い”でしかないことに気がついたんだ。「Coil Audio」のプリアンプが、例えばRCAの何かなどの特定のヴィンテージ・モデルのクローンや再現ではないことはここに由来している。当時の天才達が作った各社の回路から様々なトリックを借りて、それぞれが持つ異なる世界観からベストな引き合わせを模索して作ったんだ。「CA-70」は当時、皆が採用していた「Western Electric」のシンプルな回路に「6J7/6C5」真空管を搭載し、「RCA BA11」、「BA21」、「Gates SAシリーズ」からの要素をもらって構成している。「CA-286」は、50、60年代によく使われていた「EF86」真空管を搭載して、どちらかというと「Langevin 5116」に近い。そこに「Telefunken V72」、「V76」、「Collins 356」、そして50-60年代の「Gates」プリアンプの要素が入っている。




「CA-70」に搭載される「6J7/6C5」真空管



── ヴィンテージ・プリアンプとの違いとはどのようなものですか?

各社が行なっていたことの違いのひとつがネガティヴ・フィードバックの量になる。マッチングさせるマイクによってマイクプリの仕様が異なるんだ。例えば、「RCA」のプリアンプはネガティヴ・フィードバックがスパークしてリボン・マイクをブライトに良いサウンドで鳴らす。「Telefunken」のプリアンプは、フラットでニュートラル、歪みなくクリーンで美しい。これはドイツのエンジニア達が驚異的で、組み合わせる真空管マイク達がニュートラルだからだ。「U47」と「V76」を繋げて声を聴けば、感嘆する本来のサウンドがわかるよ。52年の「Fender Telecaster」と「Deluxe Amp」の組み合わせも同じ話で、「Telecaster」単体でグワン・グワンになるサウンドが、「Deluxe Amp」と組み合わせることでチャイムのように鳴る。一緒に作られたものはマッチングさせることでリアルなサウンド・デザインが聴ける。「Coil Audio」プリアンプは、ヴィンテージ・プリアンプと違い、ネガティヴ・フィードバックをコントロールしてどんなマイクにも合わせてられるようにデザインしている。




「CA-70S」 : 電源を内部搭載したPS6 ラック・モジュール「CA-70」のスタンドアローン・バージョンにあたる



── 開発はどのように行いましたか?

開発している間はすべてヴィンテージ・コンポーネントを使って設計していた。俺たちは壮大なヴィンテージ・コンポーネントをコレクションしていて、それらをプロトタイプに乗せて試して、どうすれば驚異的なサウンドになるかを選んでいった。持続供給できる製品にするにあたって「Gates」プリアンプの入力トランスを供給していた「Foster Transformer」という会社が現存していたので、俺たちのプリアンプのトランスを作ってくれないかと電話したんだ。しかし、オールド・ファッションのトランスを作ることはできないと取り合ってもらえなかった。モダンなトランス・ワインディング・マシンは挙動が速過ぎて、オールド・ファッションのトランスを作るための非常に細いワイヤーを壊してしまう。オールド・マテリアルには、ワイヤーを壊さないナイス&スローなオールド・マシンが必要になるというんだ。当時の資料を探してくれるようにその後もアタックして、最終的に昔のセールス・エンジニアリングの資料を見つけ、それを作ることができるミリスペック・トランスフォーマーの会社を見つけ出した。

一年以上掛け、その会社で7つのリビジョンを作ったんだが、サウンドは近くなるがオリジナルと同じようなトランスにはならなかった。正しいコア・マテリアルじゃないとオリジナルと同じようなサウンドにならないんだ。プロトタイプを作っていた男に、「とても近いところまで来ているんだがオリジナルとは違う」と話したんだが、残念ながらその会社にはオリジナルのコア・マテリアルが何だったかを知る者は誰もいなかった。

途方暮れていた時に、かつて「Western Electric」のワインダー働いていて、コア・マテリアルを知っているという70歳過ぎ男を見つけることができた。60年代に売却された会社が作っていた特殊なミュー・メタル・トランスのプロトタイプを送ってくれて、それがオリジナルと一致したんだ。それまでのプロトタイプ・リビジョンに足りなかったオリジナルの「Foster Transformer」が持つ、トップエンドのディテールとクリスピー・サウンドがそこにあった。すぐにその男に電話して、「OK、同じサウンドだよ、ところでもっとローエンドをくれないか」と伝えたんだ。男は「わかった、特別なワインディング・テクニックがある」と答えて出来上がったのが、「CT-110HN」入力トランスだ。(スタンドアローンモデル「CA-70S」、「CA-286S」に標準搭載) 「CT-110」ロー・ニッケル・トランス(「CA-286」モジュールに標準搭載)は、オリジナルの「Foster Transformer」と同じもので「CT-110HN」がオリジナルの「Foster Transformer」の拡張版にあたる。実際のところ「CT110-HN」は、オリジナルの「Foster Transformer」よりいい。赤ラベルの「CT41」出力トランスは、ピアレス・トランスで、50s /60sの回路にベストなサウンドになるようにまた別の男に専用設計してもらってる。(現在は、「CT41」の拡張版にあたる「CT41HN」もラインナップ)




「Coil Audio」によって現代に蘇った「Foster Transformer」。50s/60sサウンドに欠かすことができない



・・・わかるだろう、必要なものというのは誰も作っちゃいないんだ。みんな新しい真空管機材を買いたがらない。その理由は、見た目がヴィンテージなだけで、ヴィンテージのサウンドがしないからだ。トランス開発だけのために1年半かかったが結果には満足している。誰もこんなトランスを持っていないし、作ってもいない。自分達のために自分達で作ったこのトランスだけだ。“MADE BY US”そして“MADE FOR US”ってことさ。

「CA-286」は、「EF86」真空管のブライトなハーモニクスを持ち、「CA-70」は「Western Electric」の回路をベースに「6J7/6C5」真空管を搭載して大きなロー・ボトムとオープンなハイ・フィディリティを持っている。どちらも非常に大きなヘッドルームと心地よいクランチ・サウンドを売りにしている。個人的には、ダイナミック・マイク、リボン・マイクとの組み合わせを試してもらいたいね。誰もが知っている「Shure SM57」がヤバイ音で鳴ってくれる。俺も最初は「SM57」にそんなポテンシャルがあったなんて知らなかった。




CA-286S:60年代のフラットなサウンドを持つ、EF86真空管ベースのマイクプリアンプ



── 現代のプロダクションにどのように使えると考えていますか?

1900年代初期のハイ・フィディリティな機器を使ってモダンなポップ/ロック・レコードを作るのが「COIL AUDIO」のスタイルと言える。1900年代初期の設計と聞くとみんな古臭いサウンドをイメージしがちだけどそれは全く違うんだ。古臭いサウンドのイメージは、記録されたテープが何世代にもコピーされ、それがアナログ・ヴァイナルにカットされる過程で起きているもので、当時の真空管機器自体は信じられないほどにハイファイだ。スピーカーから音像が飛び出してくる。モノの本には、こうすべき、ああすべきと過剰に書かれているけど、オーバービルドは何も良くしないし、物事の本質から遠ざかっていく。エンジニアの耳を持ってフランク・シナトラのレコードを改めて聴いてみると良いよ。超絶にハイファイでリアルだ。ショッキングな話さ。

真空管のラウンドしたナイス・サウンドは耳に心地よく、ここにソリッド・ステートのシャープなサウンドはない。New Yorkにある「シアー・サウンド・スタジオ」のラッセル・ハムが書いた「TUBES Versus Transistors」というレポートがあって、そこには理論的な話が大半を占めているんだが、ようは音楽の伝送に真空管が適しているって話が書いてある。優れた真空管機器は、巨大な窓のように広いスイートスポットにエナジーを伝送してバイヴレーションを伝えることができるエモーション・マシーンだ。トランジェントとエッジがレンジの中に収まってドラム、ベース、ヴォーカル、何にでも使える。今の映画産業にはもっとファンシーな機器が使われているけど、俺たちが作る機器には、もっとたくさんのハーモニクスがあり、リッチで張りもあって、オーケストラやフィルムのサウンド・トラックにもよく合うんだよ。