LEARN - Rockruepel COMP.TWO
レコーディング・エンジニア 菊池 司(Arte Refact)
ドイツ、デュッセルドルフのブティック・プロオーディオ会社「Rockruepel」(ロックルーペル)のリーディング・プロダクトとなる「COMP.TWO」。Vari-MuコンプレッサーでありながらVCAのような速さを持つ、この「COMP.TWO」を愛用されているというレコーディング・エンジニア、菊池司氏に製品が持つ唯一無二の個性とその魅力、また同社の意欲的な新製品、「SIDECHAIN.ONE」の製品レビューを伺いました。
最初に「Rockruepel」を知ったのは海外のマスタリング・ギア、ハイエンド・ギアなどのフォーラム・スレッドですね。「COMP.TWO」の前身となる「COMP.ONE」の頃から、著名なレコーディング・エンジニア達の間で評価の高いコンプレッサーとしてよく話題に上がっているブランドでした。実際に試す機会が持てない機器でしたが、国内に代理店ができたことでようやく試すことができました。「COMP.TWO」は、少し前に「PROCESS.AUDIO」で作られたオフィシャルのプラグイン・バージョンがリリースされていたので、その違いなども興味深かったです。 ※「PROCESS.AUDIO」社製「COMP.TWO」プラグイン:https://process.audio/en/products/rockruepel-comptwo

SIDECHAIN.ONE(上段)とCOMP.TWO(下段)
いわゆるブティック系の真空管コンプレッサーで、クセが強く、独自の世界観をしっかり持っている機器という印象でした。エンジニアのFab Dupontがプロトタイプを試した時に、コンプを掛けないモードをつけてくれ、と要望したことから搭載されたという「AMP only」モードがありますが、僕自身も音を通した瞬間にそのエピソードを理解できました。「COMP.TWO」は、コンプ機能以前にまずアンプのキャラクタがめちゃくちゃ良い。コンプを使わなくても入力の突っ込み具合でコントロールできる歪み感、そのサウンドに大きな魅力があります。そのキャラクタの上で、コンプのアタック、リリースの掴み方を制御できるというイメージです。個人的に非常に好きなサウンドで、求めていたコンプレッサーだと思いました。
VCAのようなエンベロープを持ちながら真空管コンプとして使えるというのは「COMP.TWO」のウリのひとつですが、実際、アンプのサウンドと相まって、他で聴いたことのない独特のキャラクタを持っています。誤解を招く表現かもしれませんが、一般的にVCAコンプを高速で掛けたときにはエッジが立ち、パンチが出る、またVari-Mu真空管コンプと聞くと何となく反応遅くヌルッと掛かるイメージがあります。しかし、「COMP.TWO」は、アタックを速くしたときには速く掴み、そして速く掴むけどVCAコンプのエグみは出ない。設計の妙だと思いますが、滑らかだけどパンチがある。おそらくアンプのキャラクタでそれを成し得ていると思いますが、そこのバランスがすごく良い。何に使ってもキンキンした感じ、エグい感じにならず官能的な音に収まるのは結構不思議で、設計者の哲学を感じます。

アンプへの精密な入力コントロールが行える高性能ポテンショメーター
「COMP.TWO」は、速いアタック/リリースにすると掴むのも速く、離すのも速い。ピークを捉えてくれてハリもありつつ固くならない。しかし、それしかできないかというと、普通のVari-Muコンプのような、遅いアタック/リリースで掛けっぱなしのような使い方しても気持ちよいし、インプット浅め/スレッショルド深めなど、浅く引っ掛かるような使い方にもクリーンで良いまとまり方をします。リリースを変えるとアタックにも影響を与えている印象があって、スペック・シートの値をみて想像していたよりもコントロールに幅があり、いろんな場面で使えるコンプです。同じVari-Muコンプでも、「670」、「176」タイプとも違うし、もちろんVCAコンプ、FETコンプのものとも質感が全然違う、本当に独特の魅力があります。
通した時にミッドレンジから下がグイッと前に出て音像が大きくなるような感じがあります。コンプを掛けても細くならないことから、線が細いなというソースに対してはあえて潰し目に入れたりできますし、自然になだらかにしたい時には芯を残してコンプレッションできます。このキャラクタは、歌、ドラム、シンセ、何に使ってもしっかり聴けます。もう少し太さが欲しい素材、歪み感が気になる素材などが届いてもそれぞれ適切に対処できますし、その上でコンプを設定してあげるとパンチも出せる。この個性は実際のプロジェクトでも重宝しています。下処理的に使う以外にも、ドラム・バスにポンピングするくらいめちゃくちゃな潰し方をしても、ラウドだけど聞き心地がよいサウンドが得られて好きですね。派手に歪んでいるにも関わらず質感はなだらかに収まります。自分が求められているジャンル的に、ドラムはアタック感やトランジェント感のあるパキッとしたサウンドに仕上げることが多いですが、個人的にはインディー・ロックのラウドな感じが好きなのでその要素を加味する際にも役立ちます。「COMP.TWO」で得られるサウンドというのは今の時代にあっている感じがしていて、僕は主役の引き立て役として使うのがすごく好きです。ボーカルだけでなく、ベースを主役にしたミックスを作るときにも中低域を押し出してくれてうまく活用できました。
「COMP.TWO」のキャラクタが好きであれば2ミックスにも、もちろん良いと思います。入出力ノブが連続可変型のポテンショメーターなので、マスタリング用としてはステップ・スイッチになっていた方がリコールを考えると一般的によりよいですが、「COMP.TWO」の場合は、アンプへのレベルの入れ方のコントロールに赴きがあるのでそもそもの考え方が違うようにも感じます。「COMP.TWO」のポテンショメーターはリアルタイム・コントロールが行えるほどの適度なトルク感があるので、個人的にはそれほど使いにくさは感じませんでした。MSコンバータを積んでいる「Vertigo VSM2」を使って「COMP.TWO」をMSモードで使ってみましたが、音像が破綻することなく割と自由にコントロールできるので、MSコンバータを持っている方はその使い方も試してみてほしいですね。
「COMP.TWO」プラグイン・バージョンはクセがなく、少し優等生的な印象がありました。1、2dBくらいリダクションさせたときのコンプの感じはすごく似ています。ただ実機と同じように「AMP only」モードを搭載しているものの、この音色、サチュレーションであるなら他で持っているプラグインでも代用できるかな、と実機を試す前だったので実はそこで興味を一度無くしかけました。(笑) もちろんプラグイン版が悪いという意味ではないですが、実機の方を試してみるとアンプのトーンやサチュレーション感、特に潰したときの挙動には明らかな違いがあり、コントロールの幅も広く、良い意味でプラグインとは全然違う印象がありました。コンプは浅めの自然なリダクションで使うときも多くありますが、あえて実機を選ぶとき、自分は強烈に潰しても破綻しないものを求めています。プラグインのコンプレッサーは、無茶な設定をするとリダクションが気持ち良く掛からなかったり、エイリアス・ノイズが聞こえてきたりするので、このあたりは実機との大きな違いだと感じています。その点、実機の「COMP. TWO」は深い設定でもしっかり耐えてくれて“コンプが掛かっているけど良いサウンド”と、感じられる魅力的なサウンドを残してくれます。

PROCESS.AUDIO社が開発したRockruepelオフィシャルの「COMP.TWO」プラグイン
ここはゲーム、アニメ系のプロジェクトが多いんです。例えば、声優さんが声にキャラクタを作ったまま歌うとき、突発的なピークやダイナミクスの振れ幅が際立つことがあります。「COMP.TWO」は、しっかりそれを捉えながらキャラクタとトーンを作ることができます。パーンと跳ねても違和感なく止めて掛かるコンプレッサーというのは実はあまりなくて、ソースがなんであっても収めてくれて無茶を受け止めてくれる「COMP.TWO」の個性というのは僕達の仕事には貴重な存在です。レコーディング・コンプとしてだけでなく、エッジを少し抑えたい素材が届いても、迫力やパンチを確保しながらもう一段、立体的な処理ができますし、線を一回り太くしたいときや、ピークが目立つ高音のキャラクター、高域の歪みなど、プラグイン処理がいくつも必要なる素材であってもしっかり下処理されることで圧倒的に扱い易くなり、その手間を大きく減らすことができます。特に宅録の素材を受け取ることが増えてきているので、高品位に音を整理できる「COMP.TWO」の妥協ないアナログ・アンプと独特なコンプ特性には助けられることが多くあります。

ブティック系の良い機材というのは、哲学がしっかりしていて“こういう場面で自分は強いよ”と、態度がはっきりしているところが気に入っています。特に自分で所有する機器はブティック・メーカーのものであることが多いですね。機器の仕様を見てサウンドを聴いてみると、設計している人はこういう感じが好きなのだろうな、というのがわかるところも好きです。個性ある機材というのは、個性ある機材同士を合わせると喧嘩するのかと思いきや、おのおののコンセプトがはっきりしているので組み合わせさえ間違えなければ、キャラクタがぶつかることもありません。パキっと掛かる高性能なディスクリート機器と組み合わせても使える、キャラクタのある質の高い真空管コンプレッサーを探していて、決定打になるものがなかなか見当らない中で見つけたのが「COMP.TWO」なんです。特に実機の「COMP.TWO」には、よい意味での驚きもあると思うので、ぜひ興味を持ってもらいたいアウトボードです。
次回、「SIDECHAIN.ONE」の製品レビューに続く
菊池 司
音楽制作チーム「Arte Refact」にレコーディング・エンジニアとして所属。アニメ・ゲーム楽曲を中心に数多くのコンテンツに携わる。Arte Refact / arte-refact.com