LEARN - S4X
レコーディング・エンジニア 福田聡
サウンド・エンジニア専用ヘッドフォン、「S4X」ユーザーに製品の魅力と普段使っているリファレンス音源について訊く、第二回。クラシックなソウル/ファンクを基軸においたバンド・サウンドから、モダンなR&Bトラックまで、ブラック・ミュージックをルーツに持つ国内トップ・アーティスト達から熱い支持を集めるレコーディング・エンジニア、福田聡氏にお話を伺いました。
まず、パッと見て木目なのがいい。赤いケーブルというのも好き。S4Xは、見た目が良くてそこから入りましたね。実際に触ってみるとヘッドフォンの装着感も程よく、音がすんなり入ってくる感じがあった。これまでヘッドフォンは、好きな低音のシェイプがあるクローズド(密閉型)のものを選んで、低域の感じをチェックするリファレンスに使っていました。オープン(解放型)で定評のあるモデルも一通り聴いてみてはいたんですが、高域がシャリシャリして下が抜けてしまっている印象のものが多く、僕の食指には届かなかった。馴染みのなかった解放型のヘッドフォンですが、このS4Xは、抜け感、中高域より上の感じなどが自然で、密閉型ヘッドフォンではわかりづらいと感じていたところをカバーしてくれるものとして、良いタイミングで出てきてくれました。いろいろ持っていましたけどリファレンス・ヘッドフォンは、もうS4Xでよい。というか、これがよいという感じです。
一時期、すごく使っていたことがあります。けれども、ヘッドフォンを使ってミックスを行うと重箱の隅までわかるので音を整理しすぎてしまう。ミックスはスピーカーで行なって、ヘッドフォンを使うのは最後の確認、微調整の時だけになりました。ただ、S4Xになってからヘッドフォンの出番が変わってまた増えてきています。以前は低域を確認するためだけのリファレンスとして使っていましたが、最近はミックスする前に、必要になる音域を確認する帯域チェックにもモニター・スピーカーと併せて使っています。全体の見取り図じゃないですが、S4Xは、スピーカーと同じように全体像を把握しやすい。自分の作業場では、サブ・ウーファーを加えたATC SCM25A-Proと昔のAura Tone5Cを使っていて、S4Xはその間を埋めてくれています。
S4Xは、HIPHOPの音源を聴いても下が出ているのでわかる。そして過剰に出ていない。そこが好きですね。以前、著名なHIPHOPアーティストがプロデュースしているヘッドフォンを買って、これで俺もそのサウンドが作れるぜ!と思ってやってみたんですけど、仕上がりはものすごく地味になりました。(笑)音が派手にできているヘッドフォンをミックスに使うと地味になる。そういう経験もあるので、きちっと音を出してくれるものがモニターとしてはよいのかなと僕は思いますし、確実なものを選ぶようにしています。S4Xの低音は一瞬少ないかなとも思いますが、S4Xの方が正しい。過度に出ていないので帯域の印象を冷静に聴けるし、S4Xで低音のラウンド感を作ると、何で聴いても他でボヨーンとならない。ちゃんとしたものでやるのが大事です。
S4Xは、高域の上の方でシュワーとしているところも過剰に出ていない。音数の多い音楽はシュワー感が大事なので、好みかもしれないけど、エンハンスしたサウンドのヘッドフォンを併用したい人もいるかもしれない。ただミックスは、シュワー感を聴きすぎて腰高なサウンドになってしまってもダメ。S4Xは過剰に出ていないというだけで、これで高域の管理ができないということにはならない。色でいうとカラフルというより落ち着いているマッドなイメージで、おそらく上下の帯域バランスが程良いからだと思いますが、前後の距離感もわかりやすく、例えばハイハットやパーカッシブなリズムなどのアタックが前に出過ぎている箇所があれば気が付ける。頼りになりますよ。
スタジオに行ってラージの鳴りを聴くときは、新しめの音源を選んでいます。ベタすぎかもしれませんが、全体の低域の感じを聴くものとしては、「Weekend / After Hours」。ドラムの出方が大好きな「H.E.R.」の「Damage」。
「Bruno Mars, Anderson .Paak, Silk Sonic」の「Leave the Door Open」は、歌の出し方すごくよいので参考になるな、と思って聴いています。
スタジオで音がどう聞こえるかのリファレンスとして、もう少し前から使っているものだと「Kendrick Lamar / DAMN.」の4曲目、リアーナが出てくる「Loyalty. Feat. Rihanna」。サビで、ものすごく低い20Hzあたりの低音が出てくるのでそれがちゃんと聞こえるかどうか。また似たようなところでは、ロバート・グラスパーがやっている「R+R=NOW / Collagically Speaking」の2曲目、「Awake To you」の打ち込みのドラムが生ドラムの下に入っているので、それがちゃんと聞こえるかをよくみます。
歌でいうと、「Ariana Grande / Positions」の淡い感じのサウンドが心地よく、かつ空間の使い方も上手いので全体的なエアー感を含めて参考にしています。
もうひとつ、「Summer Walker / Over It」の「Come Thru(with Usher)」は、歌の入ったときの掴みがすごくしっかりしていて、こういうボーカルのミキシングがしたいと思わされる曲です。アルバムの第一声がよければその後も聴いていけるので大事にしているところです。
福田聡
レコードを聴き漁る大学生活を経て卒業後、2000年にビーイング入社〜レコーディング・エンジニアのキャリアスタート、2013年フリーランスに転向し現在に至る。レコーディング・アーティスト:ENDRECHERI / 堂本剛 / Martha High / オーサカ=モノレール / Shunské G & The Peas/ K / 福耳 / 岡本定義 / SANABAGUN. / Keyco / Coma-chi / EMILAND / The Reverse / 近藤房之助 etc.