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Edwina / Edna ユーザーインタビュー

劇判とアメリカンルーツと私

作曲家・編曲家 / エバン・コール


日本の劇判作編曲家として頭角を表す、北カルフォルニア出身のエバン・コール氏は、Ear Trumpet Labs マイクロフォン、Edwina/ Ednaのユーザーです。アメリカンルーツミュージックであるブルーグラスから始まる自身のバックグラウンドと、異国文化との邂逅からたどり着いた日本でのキャリア、そして愛用のマイクのこと。東京郊外に構える自宅スタジオにてお話を伺いました。



──いつ頃から、日本で仕事されていますか?

仕事の為に来たのは6年前ですが、それ以前から何度となく来ていました。最初は、スシ、サムライ、スモウみたいな感じから始まって、そこから少しずつ勉強しては日本の文化が好きになって最終的に引っ越してきました。北カリフォルニアの大自然とブルーグラス音楽をルーツに持つ作編曲家です。また、編曲の一部と考えることもできるかもしれませんが、オーケストレーターの仕事もしています。


──バックグラウンドをお聞かせいただけますか?

13、14の時、後頭神経痛という病気になりまして、学校を何ヶ月も休まなければいけなくなりました。その時、母が昔使っていたナイロン・ギターを納屋から持ってきて、地元の先生からブルーグラスのレッスンを受けたんです。それを2年くらいやっていましたね。その後、地元に日本のアニメやゲームに真剣に興味持っている作曲好きな友達ができて、彼から色々教えてもらってオーケストラっぽいもの作曲し始めました。物語を作ってそこに想像して音楽をつけるという遊びをふたりでやっていて、カシオの安いキーボードでロックオペラみたいなものを作っていましたね。(笑) その後も学校や仕事に行かないときは、楽しくてずっと音楽やっていて地元のジュニアカレッジで音楽理論を習いました。


──音楽の仕事に就くことは考えていましたか?

いいえ、スペイン語の通訳をやろうと思っていました。僕の田舎は、その当時、メキシコ系の人が多い町で、よく彼らの中に入って一緒にサッカーして遊んでいたりしていました。それで結構スペイン語が喋れたんですよ。それこそ今の日本語くらい。Peace Corps(日本でいうとJICAと似ています)という発展途上国に行って、その国の人々を色々で手伝うプログラムなんかにも興味があったんですが、遊びから始めた音楽が結構なレベルに上達していたので、母が、音楽の学校に行った方がよい、勿体ない、と薦めてくれて、ボストンのバークリー音楽院にオーディションに行きました。ジャズが強い大学ですが僕はジャズが全くわからなかったのでオペラ声楽でオーディションを受けました。でも歌には遊び以上の興味を全然持っていなくて、やるなら映画音楽をやりたいと思って向かいました。オーディションは自分で作曲した曲で受けたのがよかった。今聴くと恥ずかしいレベルの曲なんですけど、その審査の先生がたまたまフィルムスコアリングのトップの先生だったので、“いまオペラを歌ってるんですけどフィルムスコリングがしたいんです!”と伝えたら合格できました。入学した後はオペラはほとんどやらなくて、2年目には映画音楽のクラスを受けれるようになりました。





──映画音楽のクラスでは、どのようなことを学びましたか?

アメリカのアニメやドラマでは、映像に合わせて作ることが多いですが、先に曲があってそれを映像に充てていくのもあります。ミュージックエディティングと言って、映像をもらって他の映画に作られた曲を仮の音楽として貼り付けていく宿題をよくやりました。その授業でプロツールスの使い方も覚えました。これは作曲家に“新しい映画に必要になる曲のイメージはこんな感じ”、というもの提示するための仕事があってそのためのスキルなんですが、僕は全然ダメでした。日本でいう音響監督に似ているものですけど、ちゃんとやっているひとはすごいですね。(笑)他には映像と音楽のシンクなどの基礎的なことを学びました。その時詰め込みだったことも後になって理解が深まることも多かったです。


──その後はすぐ日本に来られたんですか?

お金を貯めるために実家でまきを割って配達する仕事をしていました。(笑)アメリカで映画音楽をやろうとも思いましたが、やりたかっこととは少し違いました。以前から日本のアニメやゲームの音楽を聴いていたので、ハリウッドのサウンドトラックとは異なる雰囲気のサウンドのサウンドトラックがあることに気がついていました。日本の劇判はメロディーをベースにした作曲センスがよかったし、このオーケストレーションすごいな、どうやっているのかな、と思わされることも多かった。もちろんハリウッドのオーケストレーションにすごい人はたくさんいるし、メロディーが良い人もいますが、基本パッド系の雰囲気モノが多く、テーマもメロディーも無い音楽に自分はあまり興味を持てなかった。加えて、ニューヨークやハリウッドで作曲家の仕事に就けるまでにはアシスタントを10年やってチャンスが一度あるかどうかです。もちろんその先に作曲家の仕事が出来るとは限らない。ものすごく才能や実力があるのに仕事を取れないでいる人をたくさん見てきましたから、何か他に方法はないかと考えた時に日本に行ってみようと思ったんです。

ジュニアカレッジの頃から日本語も習っていて当時から日常会話や面接程度の日本語を話すこともできました。それで仕事のチャンスがあるのではないかとプランなしに日本に来てみたんです。バタバタしながらなんとかアニメやゲームの音楽制作を行う会社のアシスタント仕事にたどり着きました。仕事で日本に行くとなった時は、お母さんがたくさん泣きましたけど。(笑)その会社で、日本でちゃんと大人として生きて行くことを教えてもらいました。やらなければいけないこと、努力、スケジュール感。それと日本の複雑なところ、迷惑をかけないとか、マナーのこととか、もちろん日本の音楽のことも。その時期なしに今の自分はないのでよかったですね。





──とても興味深い経緯ですね。アメリカの田舎町で日本の音楽の情報を得ることは難しかったのではないですか?

そうですね、僕は日本でいうところの“音楽オタク”だったんです。普通のものは聴いていなかった。アメリカの人気の曲は当時のコマーシャルの曲くらいしか知りませんでしたし、ヒップホップで誰が人気があるかなんかもちろん知らなかった。僕の故郷はカリフォルニア州都のサクラメントから東北に車で40分くらいのところにあるリンカーンという田舎町です。車で隣の隣の町までマニアックなショップに行ってはマニアックな音楽を探して回っていました。日本のサントラ以外では、ヨーロッパのパワーメタル、ブラインドガーディアン、ハロウィンなんかのメロディックなメタル、シンフォニックな感じや、民族音楽の感じがあるものを漁っていました。“ジャケ買い”って言うんですか?ジャケットが面白いCDを買ってよいものを見つけたり、失敗したりしました。誰も知らないロシアのバンドとかのCDを探して出して聴いて、そのバンドに“めっちゃいいです!”ってメールしたりしてましたね。(笑)仕事では作る機会はあまりないですけど、今もプライベートではメロディックメタルしか聴いていないんですよ。(笑)


──ブルーグラス、民族音楽、メタル、オペラという組み合わせは興味深いですね。

僕のルーツであるブルーグラスや民族音楽が持っているメロディーというのはメタルにしやすく、混ぜても違和感がないんです。なぜだかわからないけど混ぜると気持ちがいい。実際、混ざった感じのメタルもあるので、メタルからアコースティック音楽に興味を持ち始める人も多いですね。北欧にたまに完全にアコースティックなアルバムを出すメタルバンドがいるんですが、そういうものもとてもよい雰囲気で大好きなんです。





──ブルーグラスについて少しお話しいただけますか?

ブルーグラスは、昔からあるアメリカのトラデショナルなフォークミュージックで、外でのんびり気持ちよく聴ける音楽ですね。都会というより田舎の音楽で、ボーカル、アコースティック・ギター、マンドリン、ベース、ウォッシュボード(洗濯板をパーカッションにしたもの)とかを使って気楽に演奏します。学校で勉強してやるような音楽じゃなくて、演奏は人伝で教わっていきます。日本にはない感じの音楽ですけど、例えるなら三味線とかの庶民の伝統音楽というところでしょうか。僕にブルーグラスを教えてくれた先生も、学校の先生達とブルーグラスのバンドをやっていました。僕より上の世代の音楽というイメージもありますが、北カルフォルニアではブルーグラスのフェスもたくさん行われていますし、若い子でとても上手なプレーヤーもいます。プルーグラスのプロになろうという人はみんなテネシー州のナッシュビルに行きます。僕はブルーグラスのフィンガースタイルのアコースティック・ギターから始めたので、最初はサムピックだけを使っていて、いわゆる普通のトライアングルのピックを使って演奏を始めたのはギターを始めてから3年くらい経った後です。だから今もギターでストラミングやカッティングでコードを弾くのは苦手なんですよ。


──Ear Trumpet Labs のマイクをとても気に入っているようですね。

Edwinaは、アコースティックな楽器を録るのによいマイクを探していて出会うことができました。幾つかよいところがあるんですが、ひとつは、“楽器をこう鳴らしたい”という自分が求めているイメージに近く録れるところです。マイクによっては、マイクのキャラクタで楽器の色が変わってしまうものもありますが、とてもクリアで楽器の特徴が素直に録れます。もうひとつは、それまで使っていたAKG C414よりもノイズが入らないこと。ここは防音スタジオではないので、指向性の切り替えスイッチをいろいろ試しても自分の環境ではパソコンの音や部屋の外の音が入ってしまい困っていました。Edwinaは、うまく指向性がコントロールされているのか、そのノイズが入らなくなったんです。もうひとつは、マイキングを試行錯誤するときにマイクスタンドを動かさなくても、カプセルの向きを変えて微調整できるのところが便利です。試して素晴らしいマイクだったのですぐに導入しました。ブライトで明るめなキャラクタで劇伴での可能性を広げてくれるマイクですね。

スモールダイアフラムのEDNAもすごくよくて、マンドリンやアコースティック・ギターのアルペジオを録るにはEdwinaよりも合っています。落ち着いていて昔っぽいブルーグラスの音を思い出させてくれるイメージもあります。アコースティック・ギターやマウンテン・ダルシマーなどのストラミングにはEdwinaの方がコード感が入ってきますし、音色的にも明るい感じが合っています。寂しい感じにはEDNA、元気で明るい暖かい感じにはEDWINAと、曲によってムードが違うものに合わせて選んでいけるのがよいですね。違いの差がしっかりあるので使い分けができます。

Ear Trumpet Labsマイクのマイクプリには、Millenniaがバランス良く気に入っています。フォーク・アコースティックの楽器に向いているマイクプリをアメリカの専門店の方に色々相談したらMillenniaが間違いないと勧められたんです。Ear Trumpet Labsは、すぐ隣のオレゴン州ポートランドですし、Millenniaは、僕の田舎から車で30分のところのメーカーなので、僕が使っている機材は全部地元のものばかりなんです。(笑)サウンド的にも雰囲気やデザイン的にも非常にアメリカっぽいですし、アメリカ製の機材として誇りを持って使っていますよ。





──近頃はどのような作品を手がけられていますか?

最近では『ヴァイオレッド・エバーガーデン』の劇判を作曲しています。これはとても感動的な話でフルオケみたいな音楽を作りました。日本のアニメーションですが、Netflix (ネットフリックス)でも世界中で観れる作品なので故郷の母もコンテンツが観れるので嬉しいです。(笑) 『ハクメイトミコチ』では、Ear Trumpet Labsのマイクが活躍しました。ブルーグラス、民族音楽が多かった仕事でマンドリンとマウンテン・ダルシマーを使ったりしています。他にも色々な民族楽器が入っています。ニッケルハルパ、バンドネオン、ケナなど、南米や北欧の変った楽器をたくさん使いましたね。NHKドラマ、『デイジー・ラック』は、30歳になる女性4人の話で、アコースティック系もあるし、シンセ系もあります。

日本は、この期間でこんなに作るの?というくらいアメリカと比べても制作スパンが短く、スピード、速さ、短期間で作ることが求められます。突然の仕事も多いし、隙間で入れていかなければということも出てくるので、とにかく速く作れないと難しい。もちろんクオリティーは高くありながらで、“速く”。一ヶ月で40曲作るとか、最初はビビりました。(笑)ただよかったことは、日本は、若手にチャンスをあげることが多いと聞いていましたし、来てみて実際そうでした。やりたいことはさせていただいているし、自分が他とは違う個性を持っているというところで、それがアドバンテージになっている面もあります。苦手なものも多いのでこれは優位であるという意味じゃなく、個性に魅力を持っていただけているということです。今やっている曲というのは、学校で音楽を学ぶ前のアニメ、ゲームのサントラを聴いて遊びで作っていたものがベースになっています。気持ちよく感動的なメロディーを作れたらいいなと思って作っています。


──今後はどのようなことに興味がありますか?

田舎育ちなので、東京の街中に住むことが難しい、というか無理。この郊外の環境も引越して5年半くらいですが(同じ郊外でなんども引っ越していますけど)、近くに川があるからなんとか許せてるくらい。(笑)いつか安定してきたら東京じゃないもっと田舎に行きたいです。野菜とかを作れる広い庭を持って、鶏やヤギも飼いたいですし、新鮮なものを食べて暇の時に外でのんびりしたい。いい風景のある田舎の方が作曲的によいんです。隣の家を見てもインスピレーションは湧かないですからね。(笑)今は必死に頑張りたいですけど、いつか長野とかで作曲をしながらブルーグラスのバンドをやりたいです。今は、それに向けて頑張っていますね。



ミラクルバス
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エバン・コール
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